第9章 暁
【ニノ】
こんな時はさ…
いや、
こんな時こそ、だな。
腹は減ってない方がイイ…
人間は満腹だと幸せな気持ちになるんだ。
『腹が減っては戦は出来ぬ』
昔の人は良く言ったもんだよね。
ホントにそう。
こんな状況で、よく食う気になれるよね?
そう思うかもしれないけど、
今だからね…
八方塞がりにすら見える、
こんな時こそ…
美味しいもん食べてさ、
少しでも顔あげて行こうぜ!
ってこと。
駐車場からエレベーターに二人で乗り込んだ。
マスクを掛けた俺と、
帽子を目深に被った大野さん、
他のお客さんもいるけど、
誰も俺たちが嵐だって気付かない。
お洒落でも何でもない上下の大野さんと、ちょっとダルダルのトレーナーにジャージの俺…
お世辞にもカッコいいとは程遠く、
何なら、見ないようにされてるレベルかな?
まあ、お陰で買いたいもの買えたけどね。
「ただいま~!!」
俺たちは翔ちゃんの待つ車に戻った。
「お帰り!!見つからなかった~??」
「全然…寧ろこんなに分かんなくって、大丈夫かってくらい分かんなかったよ…」
大野さんも少し笑いながらそう話した。
「それはそれで問題だわ…」
翔ちゃんもそれに笑顔で答えた。
「あさりまんでしょ?後は、
ざらめ醤油ロールに、
佐賀牛カレーパン、
普通のコロッケと鯨コロッケ、
それとピーナッツソフト!
それは早く食べてね!
もうとけそうだから~」
「マジかよ!!買い過ぎじゃね?」
「いいから、早く食べよ!!」
俺たちはワイワイ言いながら
車の中で、少し早い夕飯にした。
「あ、垂れちゃっ~」
「ふざけんなよ~!車内クリーニング代出してよ!」
「いいじゃん、ケチだな~」
「ハハハ…」
こんな時間が愛おしかった。
大野さんが居なくて…
誰も口には出さないけど、
淋しかったんだ…
やっぱりこの人のほんわかした雰囲気は、
嵐には必要だから…
たとえ、何も話さずそこに居るだけだとしてもね…