第1章 風花
【雅紀】
どうしちゃったんだろう…
こんな翔ちゃん、初めて見た。
飲み過ぎちゃって、フラフラになっちゃって。
あんな儚げな姿で、「送ってよ」なんてさ…
あの大きな瞳で見つめられて。
いつもとは違う、水分を含んだ潤んだ瞳で。
それが、すごく色っぽくて…
胸の奥が、ズクンと疼いた。
…ありえない。
だって、翔ちゃんだよ!?
俺の知ってる翔ちゃんは、誰よりもしっかりしてて、弱いとこなんて全然見せないで…
見せ、ないで…
でも…
タクシーの窓から流れていく景色をぼんやりと見ている翔ちゃんの横顔を、盗み見た。
暗い影を落とした横顔は、疲れているように見えた。
翔ちゃんだって、人間だもん。
弱気になったり、悩んだりすること、いっぱいあるわけで…
いつも、先頭切って俺たちを引っ張ってくれてるけど、疲れることだってあるに決まってるよね。
俺はいつも翔ちゃんに頼ってばっかりだから…
うん。
たまには俺が翔ちゃんに頼られる男になろう!
あっと、その前にニノに連絡しとかなきゃな~。
携帯を取り出そうと鞄を開けたら。
それまでぼんやり車窓を見ていた翔ちゃんの頭が、こてんと肩に乗っかってきた。
「しょ、翔ちゃん…?」
まさかそんなことされると思わなくて、声が裏返っちゃった。
「ど、どしたの?大丈夫?具合、悪い!?」
肩に腕を回して、軽く揺すったら。
ゆっくりと顔を上げ、またあの色っぽい眼差しで、見上げてきた。
「いや…大丈夫…」
「え、で、でも…」
な、なんで…?
心臓、ドキドキしてる…
「…相葉くん…」
「な、なに…?」
翔ちゃんは、ジッと俺を見つめたまま。
そっと、手を握ってきた。