第9章 暁
【雅紀】
「…なに、を…」
俺の言葉に、松潤の瞳が大きく揺れた。
頼りない子どものように。
「正直に、言っていいんだよ?本当は、辛かったんでしょ?」
言葉を重ねると、繋いだ手を強い力で振り払われる。
「俺はっ…辛くなんかないっ…」
そう言って唇を噛んで横を向いた松潤は。
やっぱり、迷子になって途方に暮れているように見えた
俺は、怖がらせないようにゆっくり立ち上がり、テーブルを回って。
松潤の隣に移動すると、膝の上でぎゅっと握られた拳を両手で包み込んだ。
「そんなに…怖がらなくてもいいよ?俺は、松潤とおーちゃんを引き離そうなんて、思ってない」
「…嘘だ、そんなのっ…」
「本当だよ」
「嘘だっ!みんなして、俺から智を取り上げるつもりなんだっ!」
「違うよっ…」
「智はっ…俺だけのものなのにっ…」
言葉が、鋭い刃のように突き刺さった。
取り上げる、とか
俺だけのもの、とか
おーちゃんは、モノじゃないのに…
胸が張り裂けそうに痛くて。
暴れようとする松潤を、力尽くで抱き締めた。
松潤は、どんな気持ちでその言葉を吐いたんだろう
おーちゃんは、どんな気持ちでその言葉を受け取ったんだろう
世間から隔離された場所で
二人はなにを思って過ごしていたんだろう
それを思うと哀しくて
なぜか、涙が零れた
「…相葉くん、苦しい…離して…」
「やだ…離さない…」
「…なんで、相葉くんが泣くんだよ…」
「…だって…松潤もおーちゃんも、どんなに苦しいだろうって思って…」
腕の中の松潤が、びくりと震える。
「…なに…それ…」
「だって…苦しいに決まってるじゃん…愛し合ってるのに…こんな風にしか愛せないなんて…」
「…俺たちは…愛し合ってなんて、いない…」
ぽつりと落ちた言葉は
苦しみに満ちたものだった