第9章 暁
【翔】
帰るために智くんが着替えてる間、
それとなく、ニノとコテージを観察した。
生活感の全くないリビング…
キッチンにはコンビニの弁当かな?
無造作にパックがいくつか捨てられていた。
料理好きで、凝り性の松潤が…
大切な人に、こんなもの食わしてたんだ…
作ってあげたいとか、
温かい食卓を囲みたいとか、
そんなことさえ、思う余裕もなくなってたのかな?
テラスで、嫌がる智くんを裸にし、
酷いことをしていた彼の姿を思い出し、
胸が詰まった。
いくら、俺に見せつけるためとはいえ、
大切なはずの恋人を…あんな場所で……
「お待たせ」
着替えを済ませた智くんが、
寝室から出て来た。
いつもの、デニムにトレーナー…
その姿に、普段の彼に戻った気がして、
少しだけホッとする。
「行こうか…」
ニノが運転する車の後部座席に、
智くんと一緒に乗り込んだ。
「じゃ、出発するよ?」
「安全運転でお願いね」
「緊張するじゃん…」
ニノの車は、静かに松林の道を走り出した。
智くんは、ぼんやりと窓の外を見ている。
その首筋に、まだ新しい紅い痕を見つけて、
俺は思わず目を反らせた。
前とは変わってしまった恋人を…
自分のせいで壊してしまった人が、
帰って来るのだけを、ひたすら待っているだけの日々…
何もない部屋で、
どんな事をされても、
自分が悪いんだから…と、言い聞かせ、
恋人が元に戻ってくれると信じて
堪えていたんだろう…
そう思うと、胸が押しつぶされそうになる。
「…智くん…大丈夫だから……」
そう言って、膝の上に置かれた手をそっと握った。
きっと守ってあげるから、と
強い気持ちを込めて…
「…翔くん…」
ゆっくりと俺に向けられた目が、不安げに揺れている。
本当は抱き締めてあげたいけど…
今は…それは……
俺はその目を見ながら、大きく頷いて、
握った手に力を込めた。