第9章 暁
「智くん…聞こえる?ここ開けて?
松潤はまだ帰って来ないから…」
ドアの前で、固まったまま動けないでいると。
遠慮がちな翔くんの声が聞こえた。
「智くん、開けてくれるまで、いつまでもここに居るから…ニノも一緒だよ。」
優しい声に、心が震えた。
「何時間もここにこうして居たら、帰って来た松潤と鉢合わせしちゃうよ?
それでもいい??」
ダメだよ…
もう、潤をこれ以上苦しませたくないんだ
そう、思うのに
「話がしたいんだ…だから、顔見せてよ…
智くん…中に入れて!少しだけでいいか…」
俺の手は、意志に反して鍵を開けてしまっていた。
「大野さん!!」
ドアの向こう側には、きゅっと唇を引き結んで厳しい顔をした翔くんと、驚いたように目を見開いたニノが立っていた。
「入るよ?」
真剣な強い眼差しが、俺を正面から突き刺す。
「何で来たんだよ…」
押し出した声は、震えていた。
「助けに来るって言っただろ!」
そう言って、一歩踏み出した翔くんの足が、ほんの少し引き摺られているのが目に入った。
「翔くん…脚…」
思わず駆け寄って、足元へ跪く。
その足首には、真っ白い包帯が巻かれていた。
「これ…もしかして…」
「…うん…」
あの日。
潤の怒りを買わないようにと、ベランダへ追い出して。
あの高さから落ちたんなら、怪我をするのは当たり前なのに。
俺は潤のことばかり…
いや、自分が潤に酷い目に合わされないようにと、自分のことばかり考えて…
翔くんのことを…
「…ごめん…」
目の奥が熱くなって。
涙が、零れた。
「ごめん…ごめん、翔くん…」
その場に崩れ落ちた俺を、翔くんの温かい腕が包み込んだ。
「智くん…もう、やめよう?1人で抱え込まないで…。みんなで考えようよ。だって松潤は、俺たちの大切な仲間でもあるんだから」
その温かさに包まれて。
俺は声を上げて泣いた。