第8章 淫雨
【雅紀】
『翔くん、脚怪我したの?
ベランダからでも、飛び降りたみたい…』
俺たちが掛ける言葉なんか、一切耳に入ってないような態度に、反射的に体がぶるっと震えた。
「うちのベランダにも、間抜けな猫がいてね…。俺が飼ってる大事なペットを横取りしようとしてるんだ。でも、ちょっと脅してやったらベランダから落ちちゃって、怪我したみたい」
「…なに、言ってんの…?松潤…」
松潤の部屋は、高層マンションの上の方で、猫なんか来るわけないし、ペットだって飼ってない。
そんなの、メンバーならみんな知ってるのに。
なんで、そんなこと言うの…?
やっぱり、おかしいよ!
ペットって、リーダーのことなの!?
間抜けな猫って、翔ちゃんのこと!?
2人のこと、そんな風に言うなんてっ…!
「松潤っ!おまえさぁっ!」
「雅紀、待って!」
思わず握り拳を作って立ち上がった俺を、ニノが止めた。
「ちょっと、こっち来て!」
そのまま、楽屋の外へと腕を引かれる。
「なんだよっ!」
「いいからっ!」
滅多に見せない強引さで、ニノは俺を引き摺った。
「相変わらず、仲良しだねぇ、2人。羨ましいわ」
そんな俺たちを、松潤はどこか焦点の合ってない、くすんだ瞳で見つめながら、薄気味悪い笑みを浮かべてた。
「なんだよっ!」
楽屋を出て、廊下の隅の自販機まで来ると、ようやくニノが掴んだ腕を緩めて。
俺は思いっきりそれを振り払う。
「バカっ!なに言うつもりだった、おまえ!」
ニノも、負けじと俺を睨みつけた。
「だってさ!ニノは腹立たないの!?リーダーと翔ちゃんのこと、あんな風にさぁっ…!」
「立つよ!腹立つけどさ!だからって、ただ潤くんを責めればいいってもんじゃないだろ!」
「でもっ…」
「それに」
反論しようとした俺を、ニノはひどく冷めた目で、射抜く。
「潤くんをあんな風にしたのは…元はといえば、おまえと翔ちゃんだろ」