第8章 淫雨
【翔】
『翔ちゃん?どこにいるの?』
このタイミングでニノが電話を…
誰かに聞いて欲しい…
一人じゃもう抱えきれなくなっている俺を、
見透かしたいようなニノの電話。
「木更津に、いるんだ…」
俺は、正直に話した。
但し、今は状況のみ。
松潤が大野さんといること。
大野さんは、松潤の精神状態を考えて、
一緒にいて、
ひとりで何とかしようとしてるってこと。
いろいろ、掻い摘まみ過ぎて、
なんだか話が見えないだろうな…
とは思いつつ…
それでもニノは、何も言わずに、
俺が傷付いていることを知っているかのような、
優しく包みこくような声で言った。
『取りあえず帰ってきてよ。
翔ちゃん…待ってるよ』
「うん…」
『俺と相葉さんも考えるから…一人で抱え込まないで!きっと大丈夫だから…』
ニノの言葉が、吹きすさぶ荒野に
ポツンと取り残されたような俺の胸に、
じんわりと染みこんでいく。
「…ニノ…俺…」
『いいから!早く帰っておいで!
大野さんは大丈夫!あの人、意外とタフだから♪
翔ちゃんも分かってるでしょ?』
……そうだ…智くん、絶望してない筈だ。
こんな状況だけど。
前に向かおうとしてる…
それが分かるから…
「今から、そっち行くよ」
『待ってるから…』
ニノとの電話を切って、俺は静かに車を発進させ、来た道を戻っていく。
さっきの別荘の横を通り過ぎた。
……智くん、待ってて。
きっと助けてあげるからね!
智くんと…
そして、松潤も……
俺のせいで………
俺のエゴで、ふたりをこんなにも追い込んだんだとしたら……
何とかしなきゃ///
出口をも止めてもがいてるはずだ。
………潤……
街頭の灯りさえない、
漆黒の道路を、
俺は光を求めて、一路、仲間の待つ光の街へ、アクセルを踏み込んだ。