第8章 淫雨
「痛てっ///」
狭い窓から、何とか身体を滑り込ませ、
部屋の中に入り込んだ俺の目に映ったのは、ドアの前で倒れてる智くん。
真っ青な顔の彼の身体を抱き起こした。
「智くん!智くん!!しっかり…」
ビニール袋は…??
そんなもの、直ぐにあるかどうかわからないし、
俺は、苦しそうな彼を抱き寄せて、
その唇に自分のを重ねた。
そのまま、大きく息を吸い込んで、
彼の中の余分な酸素を吸い上げた。
……智くん…
智くん…智くん………
大きく揺れていた肩が、徐々に小さくなり、
彼は力のない腕を、俺に絡めて来た。
痩せて、一回り小さくなった身体を、
俺は強く抱き締めた。
智くん…
こんなになって……
幸せなんじゃ…ないんだ、よね?
潤と二人っきりの、
潤をただ待つだけの生活…
楽しい訳じゃないんだ?
どの位そうしていたのか?
俺はゆっくり智くんの身体を離そうとした。
すると彼は、俺に顔を見せないためなのか、
俺の首に両腕を絡めて来た。
そのまま、彼の華奢な身体を抱き上げ、
ベッドに横たえた。
「智くん…もう直ぐ、潤が帰って来る。
今夜は、いったん帰るよ。
潤とちゃんと話し合うから…だから、待ってて」
俺の言葉に、智くんは何も言わずにただ見つめていた。
ここで潤と鉢合わせすることは、今は避けたい。
帰ろうとする俺に、
この日初めて、智くんが声を掛けた。
「翔くん…背中…」
「えっ??」
「見せて…」
ベッドを滑り降り、近付いてきた智くんが、徐に俺を反対に向け、
来ているシャツを捲り上げた。
「酷い…これ…」
「えっ?」
「背中…凄い擦りむいてる…」
……ああ、さっき小窓から無理やり入り込んだとき…
夢中だったから、気付かなかった。
「来て…手当しなきゃ…」
言われるがままに、シャツを脱がされ、
消毒された。
「つっ///」
「あ、ごめん…少し我慢して…」
「ん…」
彼の少し冷たい手が肌に触れて、息が詰まる。
その時……
玄関の鍵が開く音がした。