第8章 淫雨
【翔】
『…ごめん…俺は…潤の、ものだから…』
心の叫びのような智くんの声が、
俺の心に突き刺さる。
智くんが、俺を選んで
俺の元に来てくれるって…
何を根拠に思っていたのか分からないけど。
そんな微かな希望が打ち砕かれる。
……智くん…あなたは……
それでも。
こんなことしてて…このままでいい訳ない…
『ずっと一緒にいようね』って、
ハワイのあの空に、青い波に、白い雲に、
そう誓ったじゃん!!
俺たちは、ずっとずっと
一緒に歩いていくって…
恋人とか、そんなの抜きにしても、
俺たちは運命共同体『嵐』のメンバーだ。
そうだろう??
そのリーダーのあなたが、
全てを捨てて、こんなところに隠れていて
いい筈なんかない…
砕け散った欠片を拾い集めて、
折れてしまいそうな自分を振り立たせた。
「智くん、ここを開けて!
こんなのダメだよ!潤の事が好きなら…
潤を愛してるなら、それでもいいから…
戻ってきて!」
………
ドアの向こうに、
確かに彼はいるはずなのに、
俺の声が聞こえているはずなのに、
「智くん…俺が悪かったんだよね?
俺が…潤と智くんの間に、割って入ろうなんて…
潤から、あなたを奪おうなんて…
そんなこと…できっこないのに……」
言っているうちに、泣きそうになって、
俺は歯を食いしばった。
………
「…はっ…ぁ…はっ、は…
しょ…く…くるし…」
ドアの向こうから、
微かに漏れて来た智くんの…
過呼吸だ!!
どうしよう///助けてあげなきゃ!!
どこか……
入れるところはないのか??
俺はドアの前を離れ、外から寝室の窓を探した。
俺を、彼のところに繋いでくれる場所はないか…どこかに…智くんのところに……
この向こうが寝室だな。
その窓には鍵がしっかりかかっていて、
分厚いカーテンが閉まっている。
どこか…どこかないかな?
「あ、ここから…」
板張りの外壁の下、30㎝にも満たない小窓の鍵が開いているのを見つけた。
俺はそこを開け、頭を突っ込んだ。