第8章 淫雨
翔くんの熱い舌が、俺の咥内を我が物顔で暴れ回る。
「んんっ…ふっ…」
翔くんの熱に侵されたみたいに頭がぼーっとして、なにも考えることが出来ない。
こんなこと、ダメなのに…
俺は潤のものなのに…
もう一人の俺が頭の中でそう囁くけど、翔くんを求めるのをやめられなくて。
気が付いたら、翔くんの背中に自分から手を伸ばしていた。
互いの唾液までも奪い尽くすような激しいキスを交わして。
翔くんの舌が、滑るように首筋へと落ちてくる。
「あ、あっ…」
体に巻き付けていたシーツを床に落とされる。
その時。
翔くんが、不意に動きを止めた。
「…智くん…これ…」
声が、震えた。
小刻みに震える指先が触れたのは、鎖骨の上につけられた紅い痕。
俺が潤のものだっていう、シルシ
「こんなに…」
体中、隈無くつけられたその紅を、翔くんの震える指が辿っていく。
その、ひどく動揺して揺れる瞳に我に返った俺は、反射的に翔くんを突き飛ばした。
「帰って…!」
よろりと蹌踉けた彼に背を向けて、ベッドルームへと駆け込む。
「智くんっ…」
それでも追いかけてきた手に捕まる寸前でドアを閉め、鍵を下ろした。
「智くんっ、開けてっ!」
「だめ…帰ってっ…!」
「どうしてっ!?」
体に力が入らなくて、その場にずるずると崩れ落ちる。
「お願い…帰って…」
「嫌だ!智くんを取り戻すまでは、帰らないよっ!」
「…翔くん…」
「…ようやく気付いたんだ。俺、智くんが好きだ。智くんしか、いらない。俺が傍にいたいのは、智くんだけなんだ…」
翔くんの言葉に。
心が、震えた
思わず鍵を開けようと伸ばした手を、ぎゅっと胸の中に抱え込む。
ダメ…
ダメなんだ…
もう
遅い
「…ごめん…俺は…潤の、ものだから…」