第8章 淫雨
3日後
松潤はしやがれのロケで軽井沢に行く。
「松潤の上りは?」
「えっと~…21時で、
東京へは23時半着予定みたいですね~」
と言う事は、俺の上りが20時だから、
松潤がどんなに急いでも、
日を跨ぐまでは、智くんのいるあの別荘に行けない計算になる。
今日しかない!
智くんに会いに行って、確かめるには…
智くんが行方不明のままでいい訳ない、
それもあるけど。
それだけじゃない…
ある想いが俺を突き動かしていた。
『智くんの本当の気持ちを知りたい』
それというのも、松潤の行動に、
俺は疑問を抱いていた。
周りが心配して大騒ぎする中、
あいつは、普通の顔して雑誌をめくっていた。
何なら、少し薄ら笑いながら…
本当なら、一番動揺して狼狽えるはずの松潤が、不思議なくらいに落ち着いていて。
「心当たりないの?」
そう聞く相葉くんに、
「知らない…俺、大野さんのプライベート
詳しくないからね…」
って…
そう答えた彼の目が…
ぞっとするほど生気を感じなかったんだ。
焦点が合ってないっていうか、
虚ろな目が…
どこを見ているのか分からない、その目が…
俺を一瞬、凍りつかせたんだ。
……松潤……ふつうじゃない…
仕事は30分だけ押して終わった。
『急がなきゃ』
俺は、何の計画もなしに、
何も持たずに、智くんがいるあの場所へ、
車を走らせた。
もしかしたら…
智くんがそれを望んだら、
彼をさらって来ようって…
そう思っていた。
『智くん…今助けに行くよ…』
後で考えたら、この時の俺は、
松潤と何にも変わらなかった。
智くんを思うあまり、
冷静な判断力を失って、
ただひたすらに暴走していたんだ…
智くんが、
何を思って、どうしてあそこにいるのか、
考えようともしないで……
深夜、11時過ぎ、
俺の車は、松林の奥の、あの別荘の近くの空き地に、
静かに滑り込んだ。
ここなら、
二人がいる別荘からは死角になる。