第8章 淫雨
【翔】
「…キスして…」
ベランダで、松潤に強請る智くんを、
俺は闇に紛れて見つめていた。
………
この瞬間……
俺は気付いてしまったんだ。
自分の本当の気持ちを…
認めてしまうのが怖くて、
目を反らせて、認めないようにしてた…
俺の中の真実…
俺が本当に欲しいもの…
俺が………
愛するもの……
このタイミングで気付くなんて///
仕事を放置して、
何もかも捨てて、
こんな場所で、
隠れる様に松潤との愛を貫こうとしている…
もう……
君には届かない……
目の前で見た光景が、
頭の中で何度も何度も、
繰り返しフラッシュバックする。
どうやって帰って来たのか、
自分でも分からない。
気を抜けば、叫び出しそうな、
そんな思いを抱えたまま、
俺は自分のマンションに帰って来た。
智くんは、
松潤と一緒だった。
その事実が、
俺を奈落の底に突き落とした。
『智くんが松潤の元に帰ることになったら、
俺は、ちゃんと祝福する』
俺は、彼にそう言った。
実際、カッコつけて余裕のある振りをしてたのかもしれないけど…
あの時は、本当にそう思っていた。
そこまで智くんを好きじゃなかった??
………そうじゃない///
気付かなかったんだ。
本当に、俺が欲しいのは…
何かを失っても手に入れたいのは…
智くん、
君だって事。
でも……もう遅い。
あなたは俺じゃない、
別の人を選んだ。
全てを捨てて、あいつを…
『…しょおくん…たすけて…』
…………
あの時聞こえた声が、
俺の心に小さな小石を落とす。
そこからできた小さな波紋が、
徐々に大きくなって広がっていく…
智くん…
あなたは、
本当に…?
『翔くん、助けて』
今度は
さっきよりもその声は大きくなった。