第8章 淫雨
「はっ…あぁっ…もうっ…」
「言って?智…」
「…ぁ…愛、してるっ…潤っ…」
言葉が溢れた瞬間、頭の中がスパークして。
潤の熱を体の奥に感じながら、自分も同じものを解き放った。
「俺も…智を、愛してるよ…誰よりも…」
潤の嬉しそうな声を聞きながら、闇の中へと落ちていく…
「風呂、湧かしてくるね」
ベッドに沈んだ俺の頭を撫でて、潤がベッドを降りていった。
ぼんやりと暗い窓の外を見ていると、夜だというのに鮮やかな白い蝶が窓を横切って。
その姿に誘われるように、俺は体にシーツを巻き付けて、ベランダへと出る。
「…あ…」
ひらひらと舞うように飛ぶ蝶は、俺の周りをぐるりと一周して。
そのまま真っ暗な空へと飛び立って行こうとした。
「待って…」
掴もうと、手を伸ばす。
「智っ…!」
だけど、ぐいっと後ろから強い力で引っ張られて。
伸ばした手は、宙を掴んだだけだった。
「なにやってんだよ、そんな格好で!風邪引くだろ!?」
潤の腕に包み込まれて。
潤の匂いに包まれて。
俺は目を閉じた。
「…ごめん…」
「いや…俺の方こそ、大きな声出して、ごめん…」
また、髪を撫でる手。
「なぁ…絵、描かない?言ってくれればさ、道具、マンションから持ってくるし。なんだったら、新品の、買ってもいいし」
何度も何度も。
俺を宥めるように。
「智の好きなことして…ね?そうしたら…」
言葉は、闇に溶けて。
「…ん…」
小さく頷くと、抱き締める腕に力が籠もる。
「潤…」
「なに…?」
「…キス、して…」
目を瞑ると、すぐに重なる温かい唇。
「…愛してるよ、智…」
「うん…俺も…」
重なり合う俺たちを見ている影があることに
俺も潤も
気が付かなかった