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kagero【気象系BL】

第7章 湖月



自宅に帰り着いた俺は、
直ぐに風呂に入った。


考えたかったんだ…


いつものように顔だけ出してお湯に浸かる。

音の遮断された『無』の世界……


目を閉じる…


あの日の智くんを思い出してみる。



『俺も…智くんが、好きだから』

そう打ち明けておきながら、
『松潤とケリがついたら、そこから始めよう』
そう言ったんだ、俺…


『智くんが松潤の元に帰るなら祝福する』
とも……

偽善者を気取った訳でもないけど、
言ったことは、カッコつけで…

智くんに結論を委ねただけじゃないのか?

自分は安全な場所にいて、
傷付くことのないように……


…………智くん……今、どうしてる?

熱でうなされてるの?


………………それとも……


頭の中に浮かんだ小さな疑惑を振り払うように、
頭を振って湯船からでた俺は、
ガシガシ頭を洗い、身体も洗って
何かに追われるように風呂から出た。

冷蔵庫から缶ビールを出して、
プルタブを引いて…


……………………


だけど、
口をつけようとして、止めた。


…………さっき感じた胸騒ぎが…
頭に浮かんだ小さな疑惑が………

俺の中で黒い点を落とし、

それが、徐々に波紋を広げ、
俺を覆い尽くしていく…



…翔くん…助けて…


嘘だ!そんなはず、ない……


………翔くん……たすけて…

…………


……しょうくん……たすけて………


『智くん/////』


弾かれたように
車のキーと携帯だけを掴んで、
俺は部屋を飛び出した。

Tシャツと短パン……
玄関でパーカーだけを羽織って。

帽子もマスクも、何も持たず、
何かに追われるように、
運転席に飛び乗った。


この時はもう、
さっきまで、遠く聞こえていた智くんの声が、はっきりと頭の奥で聞こえていた。


『翔くん、助けて』


根拠なんか何もない。
もしかしたら二人に笑われるかもしれない。


でも…………


『待ってて。今行くよ』


俺は、マンションの駐車場を出ると、
深夜の町に滑るように
アクセルを踏んだ。


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