第7章 湖月
【智】
冷たいものが、喉を滑り落ちていく。
その感触に、意識を引き摺り戻された。
「…っ…けほっ…」
いきなり水が流れこんできて、噎せた。
「な、なにっ…」
目を開くと、目の前には酷く真剣な目をした潤がいる。
「じゅ、ん…?なに…?」
思わず手を伸ばそうとして、動かせなかった。
「えっ…?」
驚いて頭の上を見ると、ベッドの端っこと自分の手首が、あの白い手錠で繋がれている。
「ちょっと、なんだよ、これっ…」
思いっきり引っ張っても、外れる筈もなくて。
俺は潤を睨みつけた。
「外せよっ!」
「無理。鍵、なくしちゃった」
潤は感情の消えた能面みたいな顔で、なんでもないことのように言う。
「ふざけんなっ!」
「ふざけてるのは智だろ?俺は別れないって言ってんのに、話聞いてくれないから」
まるで当たり前のことを当たり前に言っているような口調に、背筋が薄ら寒くなった。
こんな潤
俺は知らない
「…外して…お願い…」
怖くて。
震える声で懇願すると、ほんの少し表情が動いた。
嬉しそうに
「可愛い…そんな怯えた兎みたいな目も出来るんだ?」
「…潤…お願い…なんでも、するから…」
「なんでも?俺が智にお願いすることなんて、たったひとつだけだよ?」
「それ…は…」
「ずーっと、俺の傍にいること」
「っ…潤っ…」
「ねぇ、さっきのセックス、気持ちよかったでしょ?智、いっぱいイッてたし」
「それ、は…」
「翔くんとのセックスより、俺の方がよかったでしょ?だって、智のイイトコも、どうすれば一番感じるのかも、翔くんより俺の方が知ってるもん」
「…やめて…」
「だから、何度だって身体に思い出させてあげる。智を一番喜ばせてあげられるのは、俺だってこと」
ニタリ、と
見たことのない顔で笑った