第7章 湖月
まるで時が止まったみたいだった。
翔くんは俺の手首を掴んだまま、微動だにしなくて。
押し潰されそうな重い空気が、俺たちの間に流れる。
軽蔑、したよね…
俺は潤とつき合ってるのに、こんなこと言って…
「…っ…ごめん…迷惑だよね…」
その重さに耐えきれなくなって、その手を振り解こうとしたけど。
それより一瞬早く、翔くんが掴んだ手首を引っ張って。
気が付いたら、翔くんの腕の中に逆戻りしていた。
「え…翔、くん…?」
翔くんは何も言わず、ただ強く抱き締めてくる。
彼がなにを考えているのか、見えなくて。
俺は抱き締め返すことも出来ずに、その腕の中でジッと次の言葉を待った。
「…迷惑、なんて…そんなこと、ないよ…」
どれくらいそうしていただろう。
ようやくポツリと落ちた言葉は、どこか苦しそうで。
「俺も…智くんが、好きだから…」
「…翔、くん…」
嬉しいはずの言葉なのに、なぜか俺まで苦しくなって。
思わず背中に腕を回した。
「でも…今はダメだ」
「どう、して…?」
「俺…自分のことしか考えてなくて…相葉くんとニノを、凄く傷付けた。もう、あんな過ち、繰り返したくない。相葉くんもニノも松潤も智くんも、何者にも代え難いメンバーだから。これ以上傷付けたくないし、絶対に失いたくない。だから、智くんが松潤とまだ切れてないって言うんなら、俺はこの気持ちのまま突き進むワケにはいかないんだ」
「翔、くん…」
目の奥がじわりと熱くなる。
翔くんはちゃんと考えて答えを出してる
俺みたいに、自分の心から逃げることはしないで…
俺は…
俺、は…
「松潤とのことに、ちゃんとケリがついたら。俺たち、そこから始めようよ。もしも、智くんが松潤の元に帰ることになったとしたら…俺、ちゃんと祝福するから」
言い切った翔くんの声には、惑いなんて一切無くて。
俺は、頷くしかなかった。