第7章 湖月
【智】
……苦しい……
怒ってる顔が
泣いてる顔が
幸せそうに微笑む潤の顔が
何度も現れては
シャボン玉のように弾けて消える
その度に息が詰まって
苦しい…
「ほら…ちゃんと息して…」
翔くんの手が、ゆっくり背中を上下する。
「大丈夫だから…ここにいるから…」
その動きに合わせて、呼吸を何度か繰り返すと、息苦しさは少しずつ取れていった。
「…ごめ…しょ、く…」
まだ整わない息の下から謝ると、今度は子どもをあやすように頭を撫でられる。
「謝んなくていい。俺たち…メンバーだろ?」
その言葉が
鋭い棘となって心に突き刺さった
「…帰る」
「え、ちょっとっ…」
力いっぱい翔くんの胸を押して、その腕の中を抜け出ると、俺は玄関に足を向けた。
「ダメだよ、そんな格好で!」
翔くんは俺の手首を掴んで、引き戻そうとする。
「離せよっ…」
「だって、そんな格好じゃ…」
「俺のことなんて、ただのメンバーだとしか思ってないんだろっ!?だったら、優しくしないでっ…」
勢いで叫んだ言葉に、翔くんの目が大きく見開かれた。
最低なこと言ってるって、わかってる
自分は潤とつき合ってて
浮気された腹癒せに、翔くんのこと利用して
潤のこと傷付けたまま
翔くんのところへ来て…
でも
俺
翔くんが好きなんだ
「…智、くん…」
濃い靄がかかったように見えなかった自分の心が、急激に晴れていく。
答えなんて
とっくに出てた
「俺…翔くんが、好き」