第7章 湖月
ビールを二缶と、昨日買った塩辛を出した。
ふうぅ……智くんに聞こえないように、
大きく深呼吸をして、リビングに戻った。
今夜はまだ…答えを求めちゃいけない。
悩み、迷う智くんの支えでありたいと思うから。
「塩辛食うでしょ~?旨いんだよ!これが」
「お~、いいね。」
ニッコリする智くん。
傷付いて、泣いてたんだろ?
君をそんなに苦しめた人は、誰なんだろう?
俺の知ってるヤツ…なの?
そんなに交友関係が広い訳じゃない智くん。
勿論、俺が全部を把握している訳じゃないだろうけど…
その中で、智くんと恋人同士だった男(ヤツ)って…
詮索するのも怖かった。
なんだか、直ぐに答えにたどり着いてしまいそうな…そんな気がして。
他愛もない話をして時間だけが過ぎていく。
「もう遅いし、今夜は泊まるでしょ?
着替え出しとくから、風呂入ってくればいいよ…」
「……うん、ごめんね…」
「ごめんねは、言いっこなしだよ?
メンバーと飲んで、メンバーの家に泊まって、なんか不都合ある?」
「…でも…」
何か言いたげな智くんを、俺は強引に風呂場へ押し込んだ。
なんだろう?
彼から話を聞きたいと思う反面…
聞くのが怖かったのかもしれない。
……だって、あの日から。
智くんを抱いたあの日から…
俺と彼の関係は、今までとは違うものになってしまった。
それは戻すことも、忘れることも出来ない…
後悔は、してない。
あの瞬間、智くんを愛した気持ちに嘘はない。
だからこそ。
先に進むことに、少なからず抵抗があるんだ。
大切な仲間だから…
もう……
誰かを傷付けるようなことは、したくないんだ。
「…お先に~…翔くんどうぞ」
「あ、う、うん…」
智くんが、俺のTシャツに短パンで風呂から出て来た。
そこはかとなく漂う妙な色気に、
俺は気付かない振りをして、大股で風呂に向かった。