第7章 湖月
買い物をして、レジを難なくスルー。
それはそれでどうなの?とも思うけど…
まあ、バレても面倒だからいいんだけどね。
買い物袋をぶら下げて、少し暗い裏道を通って、マンションに着いた。
エントランスに入ろうとして、暗がりの植え込みから人が立ち上がったのが見えた。
「わああぁっ///」
オバケかと思って後ろに飛び退くと、
「しょおくん…」
「智くん?」
それは、大野智だった。
「何やってんだよ、こんなとこで…」
「…翔くんを、待ってたんだ…」
「待ってたって…連絡してよ~」
「ごめん…」
俺は辺りに細心の注意を払って、
「ほら、行くよ」
と、素っ気なく彼の前を通り過ぎ、自動ドアの中に入り込むと、智くんも後から着いて来た。
コンシェルジュに軽く挨拶してエレベーターに乗り込むと、ほっと息を吐いた。
「写真撮られても、面倒だろ?
あることないこと書かれたら、どうすんだよ…」
そうは言ってみたけど、
「ごめん…」
と項垂れる智くんに、それ以上は言えなくて。
俺は黙って彼の手を握って、
「ビール、もっと買ってくりゃ良かったよ」
と笑った。
すると智くんも、そんな俺の顔を見て、
少しだけ、口元をほころばせた。
部屋に入って、荷物を置いてから、
「適当に座ってて…俺着替えてきちゃうから」
突っ立ってる智くんに、そう声を掛けて、
俺は着替えに行った。
どうしたんだろう…?
急に来るなんて…しかも、なんか思い詰めてるし。
恋人と……別れた?
とか?
智くんがどんな思いでここに来たのか、
図れない俺は、
ソファーにちょこんと座る小さな背中を見つめていた。