第6章 霧海
【雅紀】
「は~い、終了で~す!お疲れさまでした~」
最終チェックが済むと、スタジオの空気が一気に緩んだ。
「お疲れさまでした~」
「お疲れっした~」
翔ちゃんと並んでスタッフさん達に頭を下げながら、スタジオを後にする。
楽屋に入り、直ぐさま着替え始めると、背中に翔ちゃんの痛いほどの視線を感じた。
「…あのさ、相葉くん…」
雅紀って…呼ばないんだね…
わかってるんだよね?俺の、気持ち…
「ん~?なに~?」
だから俺は、背中を向けたまま、敢えていつもみたいに軽い返事を返す。
「うん…今日、さ…これから…」
「あ~、ごめん!今日はこれからニノちゃんとデートなの!うちで待っててくれるからさ~、ごめんね!また今度!」
いつも通り。
嵐の、メンバーとして。
「あ~、そっか…そうだよな。なに?ご飯でも作って待ってるの?」
ほんの少しだけ混じってる気がする寂しさには、気付かない振りをした。
「どうだろ~?ゲームしてて、作ってないかも…」
「なに?あいつ、相葉くんちでもゲームしてんの?」
「するよ~。どこでだって!」
「本当、好きだよな~。正しく、中毒だよな~」
「それ!ホント、そう!」
翔ちゃんの言葉に激しく同意しながら、着替えを終えて。
気付かれないように息を吐くと、腹に力を入れて振り向く。
正面から見た翔ちゃんは、俺のよく知ってる、そしてかつては大好きだった笑顔だった。
「じゃあ、俺、帰るね?」
「あぁ、お疲れ。ニノによろしく」
「うん。バイバイ、翔ちゃん」
バイバイ
俺の、初恋の人…