第6章 霧海
『帰るよ』
車に乗り込み、エンジンをかける前にニノにメッセージを送った。
たぶんゲームしててしばらく気付かないだろうと思いながらエンジンをかけると、すぐに返信の音。
『お疲れさま。待ってる』
珍しい。
もしかして、めちゃめちゃ待ってたのかな?
そう思うと嬉しくなって。
俺は違反ギリギリのスピードを出して、
帰り道を急いだ。
ニノのマンションに着くと、持っていた合鍵で玄関のドアを開けた。
「ただいまっ!」
玄関を開けると、途端に漂ってくる、ご飯の良い匂い。
うわぉ!
ご飯、作ってくれてるじゃ~ん!
俺は靴を揃えるのももどかしく、転がるようにして廊下を走った。
「ただいまっ!」
「おかえり~」
カウンターの向こうから、ニノがふわっと優しく微笑んでくれた。
「ただいまっ!ただいまっ!」
鞄を放り出してキッチンに飛び込むと、エプロン姿のニノをぎゅっと抱きしめる。
「おかえり…って、しつこい!そんなに言わなくても聞こえてるし!」
「だってぇ~、嬉しいんだもん!」
「…あほか…」
呆れた顔で溜め息吐いてるけど。
ほっぺた、ちょっと赤くなってる♪
言ったらまたへそ曲げるから、言わないけどね~
「なになに~?今日のご飯、なに?」
「さぁ…なんだろな?」
「って、生姜焼きじゃん!見えてるし!」
フライパンの中には、黄金色に輝く豚肉。
「いただきっ!」
小さい欠片を指先で摘まんで、口の中に放り込んだ。
「あ、おまえ、手ぇ洗ってないだろ!」
慌てるニノを後ろから羽交い締めにして、咀嚼すると。
「あれ…?これ…」
俺が作るのと、同じ味…
「…いっつも食ってるからさ、生姜焼きってこの味になっちゃったじゃん」
照れ隠しなのか、小さく尖らせた唇が可愛らしくて。
俺は思わずそこにキスをした。
「ありがと。大好きだよ、ニノ」
耳元で囁くと。
ほんの少しだけ嬉しそうに笑って。
今度はニノからキスをくれた。