第6章 霧海
【雅紀】
腕の中で、小刻みに震える体。
シャツがじんわりと濡れていく。
胸に押し寄せる、押し潰されそうなほどの後悔と。
それを覆い尽くす、愛しさ。
「ごめんね…ごめん…」
謝罪の言葉を口にすると、握った拳でドンと胸を殴られた。
「ぐぇっ…」
「あいばかっ!謝んな!謝ったら…俺が、惨めになる」
その言葉が、鋭い棘になって胸に突き刺さる。
俺はぎゅっと唇を噛み締めて。
その背中を、ゆっくり擦った。
「ごめんね、大事なニノちゃんに傷作っちゃって」
わざと明るい声でそう言うと、腕の中の塊がもぞりと動く。
「それは…責任取ってくれるんだろ?」
そうしてゆっくり顔をあげて、真っ直ぐに俺を見つめてきた。
涙で縁取られた睫毛が、蛍光灯の光を反射してキラキラ輝いていてすごくキレイで。
真っ直ぐに向けられたその奥の瞳は、言葉よりも雄弁にニノの気持ちをストレートに伝えてくれる。
「もちろん、取るよ。取らせてくれる?」
「あたりまえだ、ば~か。ば~かば~か、あいば…」
瞳とは裏腹の、可愛げのない言葉を吐く唇を、自分ので塞いで黙らせた。
「んっ…まさ…き…」
すぐに腕が伸びてきて、俺を縛るように絡み付く。
離さない…
「ちゃんと、ベッド連れてって」
ほんの少し熱を帯びた声で、ニノが強請る。
「うん…大丈夫?たんこぶ」
「痛い」
「ええ~っ!?じゃ、じゃあ止めといた方が…」
「雅紀が優しくしてくれたら、大丈夫」
見つめてくるのは、俺を挑発するように細められた瞳。
さっきまでは可愛らしく泣いたりしてたのにさ…
でも、そういうとこも、好き。
全部全部、大好き❤
「もちろん!これ以上ないってくらい、優しくする!」