第6章 霧海
いったい、なにがあったんだろう?
お風呂から出てきたニノは、さっきまでとはまるで別人で。
「このデミソース、うまっ!」
ニコニコしながら、ハンバーグを口に運ぶ。
「そりゃあ、愛情た~っぷり詰め込んだからね!」
俺がそう言うと、一瞬顔が強張ったけど。
すぐに笑顔に戻った。
「雅紀の愛情なんて、わかんないなぁ~?」
「え~っ?感じるでしょ~?愛してるよ、にのちゃんっていっぱい言いながら捏ねたもん!」
「…恥ずかしいから、ヤメロ」
「なんでさ!」
本気で少し照れたようにそっぽを向くニノは、俺の大好きなニノで。
ほんの少しだけ強張ってた心が緩んだ俺は、自然に溢れた笑みを浮かべて、ハンバーグを平らげた。
食器を片付け終えた俺がリビングのソファに戻ると、ニノはゲームを中断してコントローラーを床に置き、俺の隣に座った。
そのままこてんと肩に頭を乗せてきて、その仕草にドキンと胸が疼く。
こんな風に甘えるようにしてくるの、久しぶりかも…
「あ~、腹いっぱい」
「美味しかった?」
「うん。美味しかったよ。やっぱ、おまえの作る飯、美味い」
腹を擦りながらそう言って。
上目遣いで、俺を見上げた。
「…おまえの飯じゃないと、やだ」
強い意志を宿した瞳に、また胸の奥が疼く。
「…ニノ…」
「ずっと…俺の為に飯作ってよ。ずっと、傍にいてよ。ずっとずっと、俺の傍に…」
ニノの顔が、泣き出しそうに歪んで。
俺は自分の唇を押し付けて、その言葉を遮った。
すぐに舌が唇を割って入ってきて、俺の舌を探し出し、絡め取る。
そんなに積極的なこいつ、滅多に見れなくて。
その動きが、彼の気持ちを雄弁に語ってきて…
…ずっと、傍にいる…
俺はその舌の動きに応えながら、小さく震える体を強く抱き寄せた。