第6章 霧海
「ねぇ、ハンバーグさ、何味にする〜?」
ゲームを中断し、声のした方を見ると、
カウンターから、顔を出した雅紀は、
いつもと変わらぬ、優しい眼差しで俺を見ていた。
「え?あ…えっと…逆に、何味があんの?」
ドキマギした俺は、目を反らせながら聞いた。
「おろしと、デミかなぁ〜」
「ふぅ〜ん…じゃ、デミで……」
「おっけ〜♪」
俺の答えにニッコリ笑ってから、また引っ込んだ。
………俺がこんな態度なのにさ、
お前はどうしてそんなに変わらず居られるんだよ。
……こんな天の邪鬼で、
素直になれないヤツのことなんか、
俺ならとっくに愛想つかしてるよ。
雅紀………
俺さ…雅紀のことが……
「ニノ〜、先に風呂入っちゃえば?
ハンバーグ、愛情たっぷり入れないとさ、
美味しくなんないから、もう少しかかるんだよね〜♪」
「…分かった…」
立ち上がって、もう一度ちらっと雅紀を見ると、
「愛情、たっぷりな❤️」
そう、へたっぴなウインクをした。
「ばーか…」
俺は逃げるように、風呂場に向かった。
あいつは、ああいう性格だから、
あんな明るく振る舞ってるくせに、
自分のことをまだ許せないでいるはずだ。
だから、
俺から歩み寄ってくれるのを待ってるんだ。
………俺から……
分かってる……
素直になれよ、二宮和也。
好きなら、好きだとぶつかってけよ…
湯船の中で、
覚悟を決めようと、じっと目を閉じた。
その時、
「にのちゃ〜ん、出来たよ〜♪
早く出ておいで〜」
脱衣所のドアを開けて、雅紀が俺を呼んだ。
「はーい…」
よし。
つまらない意地を張るのも、
素直じゃない自分も、
今夜は脱ぎ捨ててみよう……
俺は、気合いを入れ直して立ち上がった。