第5章 霖雨
………どうしたらいいのか分からなくて、
固まった俺…
何やってんの?
全く~、冗談にもほどほどにしてよ♪
そう言おうとしたけど…
言葉が出ない…
だって……だってさ。
俺の肩に顔を埋めた彼が、気の毒なほどに震えてるから…
振り向いて抱き締めてあげたい…
大丈夫だよ…俺が付いてるよ…
そう言ってしっかりと胸の中に閉じ込めたいけど…
そんなことしたら……
そこまでしちゃったら…俺…
戸惑ったまま、動けないでいる俺に、
智くんの小さな声が届く…
「…だいて…」
………智くん……
「忘れたいんだ…何もかも…」
「さとしくん…」
「お願いだから…忘れさせてよ…しょおくん…」
……泣いてる…智くんが…
消え入りそうな微かな叫び…
そんなに苦しんでいたの?
そんなにも、君を悲しませているヤツって…
俺は…俺に……
「…なんてね…」
何も言わない俺の背中から、離れようとする彼を、振り向き様に抱き寄せた。
「しょおく…」
何か言おうとするその唇を、自分ので塞いだ。
……何も言わないで…
俺にできるなら…
俺が智くんを少しでも救えるんなら…
だって、俺たちこんなにも一緒だもんね…
重ねただけのその唇は、少し震えていて、
……涙の味がした。
何度かすり合わせただけで、そっと離し、彼の顔を覗き込むと、智くんは涙をいっぱい溜めて俺を見た。
「いいんだね?もう、今更止めるって言っても、俺、離せないけど?」
彼と、自分の緊張を解そうと、ワザとお道化てそう言うと、智くんはコクリと頷いた。
………流れ出してしまった。
今まで堰き止めていた想いが。
20年も一緒にいて、こんなことするのも、こんな気持ちになるのも初めてで…
それは凄く勇気がいることだった。
でも…
水は流れ出してしまった…
もう、戻すことなんか出来ない…できないんだ…
「…目、つぶって…」
今度はゆっくりと、智くんに唇を重ねた。