第5章 霖雨
【翔】
なんだか可愛いな…
そう思ってじっと見つめていたら、
智くんも俺の視線を受け止め、見つめ返してくれた。
……なんだか、安心するんだよな…
彼といると…
何も言わずにニッコリ笑うと、智くんが、
「翔くんと居ると、ほっとする…っていうか、
自然な俺でいれるんだよな~。
何か、安心するっていうの~?」
………智くん…
俺がたった今思ったことが、
そっくりそのまんま、智くんの口から零れた。
以心伝心…とは少し違うか?
波長が一緒なのかもしれない。
やってることも、性格も全く違うのに、
考えてることとか、温度感?っていうのかな~?
価値観っていうのかもしれない…
なんか、そんな言葉使うと、夫婦みたいだけど。
まあ、とにかく。
そう言うのが、俺と智くんは似てるんだ。
笑う俺に、
「なに~?俺、何か変なこと言った?」
って…智くん。
言葉は慌ててる様なのに、智くんは穏やかに笑ってて…
顔はちっとも不安そうじゃなくて、寧ろ、その目は『翔くんもそう思ったでしょ?』
と…言っている。
「…はあ~…智くんにしとけばよかった…」
俺はわざと、悪戯っぽくそう言って彼の顔を盗み見た。
きっと、相手にしてないか、何言ってんだよ~?
みたいな顔して、ニコニコしてるのかと思ったら、
以外にも困った顔して眉を下げていた。
困らせるつもりなんかなかった俺は、少し焦って、
「冗談よ~?分かってるとは思うけど…」
「…うん…そうだね…」
どうしたの?
どうしてそんな顔…
俺は思い切って切り込んでみた。
「智くん…彼女と上手くいってないの?」
智くんは一瞬ビクッとしたけど、何も言わなくて…
沈黙に耐えられなくなった俺は、立ち上がりながら、
「ビール、飲もうっと。智くんもいるでしょ?
ごめんね、変なこと聞いちゃって」
明るくそう言った。
「翔くん!!」
キッチンに行こうとする俺の背中に、智くんがしがみ付いてきた。