第5章 霖雨
「案外、綺麗なんだな」
初めて足を踏み入れた翔くんの部屋は、物は多いが意外に整理整頓されていた。
「案外って…失礼な」
翔くんは笑いながら、酒を冷蔵庫にしまってる。
「だって、楽屋、いつもぐちゃぐちゃじゃん」
「あ~、まぁね」
「絶対、家もぐちゃぐちゃだと思ってた」
そう言うと、笑ってんだか困ってんだか、複雑な顔をした。
あれ?
触れちゃいけない話題だった?
あ、もしかして彼女が綺麗にしてくれてるのかな?
「俺だって…たまには整理整頓するよ」
キッチンから戻ってきた翔くんは、誤魔化すようにポツリと言うと、買ってきた惣菜をテーブルの上に出し、皿の上に移しだす。
「…意外。そういうこと、するんだ」
「あ~これはさ、あいつがいっつも…」
言いかけて、マズいこと言ったって顔になって、慌てて口を噤んだ。
「…彼女?」
思わず訊ねると、目を泳がせながらまたあの複雑な顔になる。
「別に、隠さなくったっていいじゃん。彼女の一人や二人や三人、いて当然なんだし」
「二人や三人いたら、マズいでしょ」
戯けると、笑いながら乗ってきてくれた。
あんまり、知られたくないのかな?
そういや、付き合い長いけど、そういう話ってしたことないかも。
まぁ…
いくらメンバーだっつっても、全部曝け出す必要なんてないし。
俺だって、潤のこと、誰にも言ってないし…
考えないようにしてたのに、ほわっと潤の笑顔が脳裏に浮かんで。
反射的に込み上げてきた涙を、眉間に力を籠めて押し留めた。
「…どうか、した?」
翔くんが怪訝そうな顔をしたけど。
「ううん、なんでもない!飲も飲も!俺、喉渇いちゃった!」
無理やり笑みを貼り付けると、ビールを翔くんに押し付けて、自分の分のプルタブを開けた。