第5章 霖雨
「どうしたの?元気、ないね?」
ぼんやりとスタジオの隅でセットチェンジを待ってると、翔くんが声を掛けてきた。
「あ、あぁ…そう、かな…?ちょっと、寝不足、かな…?」
適当に返事をすると、翔くんは俺の隣に腰掛けてくる。
「なに?また釣りにでも行ってたの?それとも、また絵でも描いてるの?」
「あ~、うん、まぁ…そんなとこ?」
「そんなとこって、どっちだよ」
翔くんが笑いながら突っ込み入れたけど、それにボケる余裕なんか、なかった。
「…ねぇ、本当に変だよ?なんかあったんでしょ?」
俯いた俺の視界に、無理やり顔を割り込ませてくる。
「…いや…なんもないって!」
笑顔を作ろうとしたけど…
『いやだ!絶対、別れないから!』
我慢してた筈の大粒の涙が、潤の瞳から零れ落ちた。
あの後、何度話をしても、俺たちは平行線のままで。
結局、なんの結論も出ないまま、迎えの車に乗ってスタジオまで来てしまった。
『俺、今日もここに来るから』
先に出る俺の背中に、潤がそう言って。
俺は後ろを振り返ることも出来ずに、逃げるように部屋を出た。
「ねぇ…どうしたの…」
「なに、が…?」
顔の筋肉が、うまく動かせない。
押し出した声は、みっともなく震えてて…
「なんで、泣いてんのよ…」
まるで自分が痛いかのように顔を歪めた翔くんが、戸惑いがちに俺へと手を伸ばす。
泣いてる…?
誰が…?
瞬間、頬を熱いものが流れていく感覚がして…
「っ…すみません、大野、ちょっと具合悪いみたいなんで、控室で休ませます!」
翔くんは俺の腕を無理やり引っ張って立たせると、スタジオ中に響き渡る大声で宣言して。
俺の姿を皆から隠すように背中を抱いて、スタジオから出してくれた。