第5章 霖雨
智の気持ちが見えなくなって、
自分に自信がなくて、
疑心暗鬼になって…
いつしか、智から逃げて、ちゃんと向き合うことをしなくなってた…
いつだって彼は、正直な気持ちを、ちゃんと伝えててくれていたのに…
『潤…好きだよ』
『潤だけだ…』
『潤…そばにいる』
『どうして、信じてくれないの?』
智の言葉が、俺の中でこだまする。
ちゃんと……
愛してもらってたのに。
なのに……
どうして、俺は……
「……さとし…俺…」
やっとの想いで搾り出した声は、自分でも驚くほどに震えていて…
泣いちゃ、ダメだ///
俺がここで泣くのは、お門違いだ///
泣きたいのは…
泣きたいのは俺じゃなくて……
「…俺の事…好きじゃ…なくなった?」
…違う…
「もう…俺に…飽きたの?」
…ちがう、そうじゃない…
「…俺より…健くんがよかったの?」
「智///」
俯いていた顔を上げて智を見ると、大粒の涙をぽろぽろと溢して、じっと俺を見つめてた。
「…俺は…俺は、ずっと…」
「さとし…」
思わず抱き締めようと伸ばした手を、宙で止める。
……抱き締めたい…
智に触れたい…
でも…
俺には、その資格が…
伸ばされたまま、行き場を無くした手を、彼がそっと握った。
「俺の大好きな手…いつも俺を包んでくれた…」
「……」
「……この手で…健くんを…抱いたの?」
「さとっ…」
「俺だけを、愛してくれてたあの手は…もう…ないの?」
違う!!
そうじゃない!!!
「智!!」
俺は堪らず、そのまま彼の手を引き、胸の中に引き摺り込んだ。
「ヤダッ///離して///」
「ダメだ」
「俺に…触るな///」
「嫌だ///」
「俺に…俺に……」
「愛してる、智!」
抱き締めた腕に力を籠めると、その中で智は逃れようと暴れた。
嘘だ嘘だと、何度も繰り返して号泣した。
だけど……
今離してしまったら、
もう永遠にこの腕には抱けない気がして…
俺の胸を叩いて『嘘つき』と繰り返す智に、
必死に抱き締めて『愛してる』と繰り返した。