第5章 霖雨
【潤】
健くんと一晩過ごしたこと、
健くんを抱いたこと……
智が知ってた。
『俺に触るな』
邪険に手を払いのけられて、
俺の意識はあの日に戻る…
あの朝、珍しく自力で目が覚めた俺は、
隣に眠る浅黒い……見慣れたそれとは別の肌に愕然とした。
夢じゃなかった…
健くんのことを抱いたのは、紛れもない現実。
その事実に向き合った瞬間、俺は、
急いでその場から逃げ出そうと、
ベッドから転がるように降り、下に散らばった服の中から、
自分のものだけをかき集めて身に付けた。
部屋を出る間際、扉が開いたままのベッドルームを振り返れば、
健くんは身じろぎもしないで深く眠っていた。
本当は起こして、夕べの事は誰にも言わないでくれと釘を刺したいところだったけど…
……健くんだってバカじゃない。
そんなこと話すはずない…
そう勝手に決めつけて彼のマンションを後にした。
……あの時、話さないでくれと、
そう念を押すべきだった///
まさか、こんなに早く智の耳に入るなんて…
こんなことになるなら…
こんな……
「ねえ、健くんに口止めしとけば良かった…
って…まさか、そんなこと思ってないよね?」
「えっ…?」
心の中をすべて、見透かされた俺は動揺で返す言葉が見つからない。
「自分のやったこと、棚に上げてさ…
そんな姑息なこと考えてる訳じゃ…ないよね?」
「…さとし…」
俺を睨む彼の目に、今にも零れ落ちそうな大粒の涙が浮かぶ。
それを、唇を噛んで必死に堪える姿が、
俺の胸を押しつぶす。
「そんなの…そんな潤…潤じゃ、ないよ…」
「………」
声が出ない……
彼の…智の慟哭が、俺を突き崩す。
「そんなの……そんなの、俺の好きな……
俺が好きになった潤じゃない///」
血を吐く様な彼の叫びが、俺のモヤモヤを……
俺の中でクリアにならなかった迷いの霧を、ゆっくりと晴らしていく……
今……
このタイミングで………