第1章 風花
【翔】
俺は目の前でイチャイチャする二人を見ていられなくて目を伏せた。
誰が見ても、どこから見ても『俺たちは幸せだ』と、
二人を包む空気が、俺にそう教えてくれる。
お互いを信頼しあっている二人が、時折絡め合う視線が、今の俺には眩し過ぎる。
俺の心に巣食う、その苦々しい思いが何なのか、気付くのが怖くて、俺はグラスに残った日本酒を煽った。
身体はアルコールに侵食されていくのに、
頭の中はどんどんクリアになってく…
どんなに飲んでも酔えない…
『男同士ってどうなの?』そう聞いてみたら、将来への不安を口にしながらも、二人の顔は、全然不安そうじゃなくて…
信じあってる、って…
そんな顔して微笑み合うニノと相葉くん…
……今の俺には、そんな顔は、出来ない…
羨ましい……
幸せだって、
信じてるって…
どうしてそんなにはっきりと言いきれるんだ?
今まで、俺はそんな風にちゃんと誰かを好きになったことがあったんだろうか?
胸を張って、
この人の事を幸せにしたいんだって…
そんな恋愛……したことない…
彼女とだって、結論を迫られそうになって、もう逃げだしたくなっている。
そんなの…
そんなの本当に好きだって……
彼女のことが好きだって言える訳ない。
幸せそうなニノと相葉くんの姿が、
俺の闇に答えをくれた。
『もう…彼女とは、一緒にいられない』
彼女の思いには、俺は答えてやることができない。
できないんだ。