第4章 天泣
「あのね…俺…翔ちゃんに、抱かれてた…」
何度も深呼吸して。
泣き出しそうになるのを、眉間に力を入れて堪えた。
泣いちゃ、だめだ。
悲しいのは俺じゃない。
苦しいのは俺じゃないから。
「翔ちゃん…彼女とうまくいってなくて…それで、相談に乗ってたら、なんかわかんないうちに、そうなってて…」
ピクン、と腕の中の塊が震える。
だけど、やっぱりそれ以上の反応はない。
ニノは、俺の次の言葉を待ってる。
それを確信した俺は、壊れそうなくらいバクバクと波打つ心臓の音を聞きながら、震える唇を開いた。
「…ごめん…ニノ…俺…」
突然、ニノの腕が背中に回ってきて、軋むほどの力で抱きしめられた。
その腕が、まるで別れたくないって、そう伝えてくるようで…
「俺…もう、翔ちゃんのとこには、いかない」
同じ強さで、抱き締め返す。
「俺には、ニノしかいないって、それがわかったから…だから…」
その時。
ニノが、ガバッと顔を上げて俺を睨み付けたと思ったら、いきなり頭突きを食らわしてきた。
「いっ…てぇっ…!!」
激しい衝撃に、目の前にチラチラ星が散って。
俺はもんどりうって床に倒れる。
「な、なにすんだよぉっ…!」
ズキズキ痛む頭を抱えながら見上げると、大粒の涙をボロボロ溢し、眉間にぎゅっと皺を寄せ、血が滲むほど唇を噛み締めたニノが、俺を見下ろしてた。
「ニ、ノ…」
その苦しげな表情に、心に鋭い刃を突き刺されたみたいな痛みが走る。
こんな顔…
させたくなかった
俺のせいだ
全て、俺の…
思わず伸ばした手を、パンと叩き落とされた。
零れた涙は、哀しみの雨となって俺の上に降り注ぐ。
ニノは大きく息を吸い込むと。
震える唇を、ようやく開いた。
「…雅紀…」