第8章 十六夜月
桜花が安土城で暮らしはじめてもうすぐ一月になる
「うわぁっ!?」
ガターンと言う大きな音と桜花の叫び声が聞こえてきた
「....またか」
俺は仕事部屋を出て音の出所である桜花のもとへと向かった
水浸しの廊下.....聞かなくてもどういう状況か直ぐに分かった
はあぁと大きな溜息を吐き転がっている桶を拾い
涙目で手拭いを握りしめ立っている桜花に近づき
常備している手拭いを懐からだし涙を拭った
「全くお前は毎回毎回なんで頭から水被るんだ?」
「ふぇ~ん、秀吉さんごめんなさ~い」
音を聞きかけつけてきた女中に桶を渡し
桜花を湯あみに連れて行く様に指示を出した
三成とはまた違ったドジ加減に頭を悩ます秀吉
あれだけ間者かとずっと見張っていた
今も桜花を見張っている違う意味で...
掃除をすれば先程の様に桶をひっくり返し
家康の御殿に文を届ける仕事を頼めば迷子になる
政宗に頼まれ配膳をすれば何もない所で躓く
そんな桜花だが唯一得意な事それは....
「そこはね~こっち側を手前にして折り込んで...」
「凄いです桜花様!」
「こちらは如何すればよろしいですか?」
「ここはね~裏側から....」
ここは女中たちが着物を仕立てている部屋
女中からの質問に丁寧に一つ一つ答えていた
桜花の仕立てる着物は素晴らしい出来だった
「秀吉さん!さっきはありがとう」
仕立ててもらった着物を見ていると襖が開き
湯あみが終わった桜花が仕事部屋に顔を出した
「こらっ髪が濡れてるぞ
ちゃんと拭かないと風邪ひくだろう」
いつの間にか世話のかかる妹が出来た
と、この時の秀吉は思っていた...