第5章 十三夜月
「家康居るか!?」
桜花が駆け込んできた日の夕刻
今度は秀吉が慌てて御殿にやって来た
「廊下を走らないでください」
何時もなら怒る立場の秀吉が
今日は怒られる立場になっている
朝の桜花話を聞いてからいづれ秀吉の耳にも届くだろうと思っていたが
取り乱している様は想像以上だった
『いらっしゃいませ秀吉さん』
温めのお茶を手渡すと一気に飲み干した
「女中に聞いたんだが桜花が男と会うっていうのは本当か!?」
「なんでわざわざ俺に聞きに来るんですか?」
『桜花に聞けば早いのにね』
「それは......
葉月は良いのか!桜花が初めて会うやつのところに嫁ぐなんて!!」
『あら、お忘れですか秀吉さん
私は顔も名前も知らなかったんですよ?
でも、桜花は"会え"と言われただけでしょ?
しかも名前もわかっているんですよ?
はっきりしない誰かさんと違って桜花のことを幸せにしてくれるかもしれないでしょ?
ねえ、どう思う秀吉さん?』
口角を上げてほほ笑む葉月だが瞳は冷たく秀吉を睨むように見つめる
「た、たしかに葉月の言うことは正しいかもしれないが...」
「認めるんですね秀吉さん
だったらさっさと桜花と恋仲になってください」
「はあ!!?なにを急に言ってるんだ!!」
『じゃあ桜花が他の人に嫁いでもいいんですね?』
「だめだ!!?」
葉月の言葉に力いっぱい拒否の言葉を吐き出した
『ふふっそれが聞けて良かったです
ちゃんと桜花と恋仲になってくださいね』
「ああ...わかった」
すっきりした顔で帰っていく秀吉
秀吉が部屋から出ていくと家康は大きなため息を吐きだした
「やっと面倒ごとから解放される」
『あらまだ終わってないよ?
信長様をどうにかしないとね』
「一番厄介な人が残ってた...」