第9章 立待月
「おい佐助、あれじゃねえか?」
葵を連れ去り
供にいた従者たちも倒し
辺りが静寂に包まれた所に
越中から馬で駆けてくる兵たち
「その様だね
じゃあ仕上げに入ろうか幸村」
「はいはい。協力すりゃあいいんだろ」
深く頭巾を被り口布を付け
道の真ん中で仁王立ちをし兵を止めさせた
「貴様何奴だ!!
姫を!葵姫を返せ」
「ん~なんだった?」
「"姫はもうこの世にはいない"だよ」
「お~それそれ
姫はもうこの世にいねえよ!」
セリフを忘れた幸村に佐助は
こそっと耳打ちし目の前にいる男に言い放った
「ふざけるな!?」
「証拠ならある」
「こ、これは姫様が着られていた物でございます!」
バサッと投げたのは葵が着ていた打掛
血に染まり真っ赤になったそれを
真っ青な顔で凝視する従者
「せっかく襲ったのに
目ぼしい物もないし襲い損だった
だから腹いせに女を殺したってことだよ」
「お前が無表情で言うと怖いな...
まあそう言うこった
今度は金目の物持たせて行列させろよ」
「ではこれにてドロンッ」
バンッと地面に叩きつけた小さな球が弾け
辺りに白い煙が立ち込める
煙が晴れた時には幸村と佐助の姿はなくなっていた
「二人ともご苦労だったな」
「はい。そちらも上手くいきましたか?」
「ああ、お前たちのおかげだよ」
少し離れたところに馬の乗った信玄が待っていて
帰って来た二人を労った
「全くもう二度とこんなことはしねえからな!」
「なかなかの大根役者だったよ幸村」
「ぜってえ誉め言葉じゃねえだろそれ!?」
「どうどう幸村」
「何度も言うが俺は馬じゃねえ!!」
その後葵は夜盗に襲われ死んだと
北条家と松倉城城主、河田長親に伝えられた