第9章 立待月
わたしが大翔様に初めてを捧げてからひと月
北条城では着々と輿入れの準備は進んでいた
「姫様...とってもお綺麗です
お小さかった姫様も
遂にお輿入れされるのですね」
豪華な衣装を身に纏ったわたしを見て
長年仕えてくれていた女中頭が
瞳に涙をためて微笑んだ
今日わたしは北条家から
越中松倉城城主、河田長親のもとへ嫁いでいく.....
「葵」
「母上.....」
「そんな泣きそうなお顔をしてはいけませんよ?」
「...申し訳ありません」
顔を隠すように俯くと
髪につけた簪がしゃらしゃらと揺れた
「大丈夫ですよ葵
これから行く先にいる御方は
必ず貴女を幸せにして下さいますよ」
幼子にする様に母上は
優しくわたしの頭を撫でてくれた
父上は姿を見せることなく
母上と女中たちに見守られ
駕籠に乗り込んだ
「葵、道中なにが起きても
抗ってはなりません
そのまま身を任せなさい
そうすれば春はすぐ訪れます」
冬になったばかりだと言うのに
"春が訪れる"と言われ困惑した
「姫様、出立致します」
駕籠に御簾がおろされ
松倉城へと行列は進みだした
「可愛い私の娘
どうか幸せに.....」
駕籠に揺られて二刻程進み
もうすぐ越中に入ろうとしていた
ガタンッと駕籠が揺れて止まり
辺りが騒がしくなった
「何者だ!!」
駕籠が地面におろされ御簾を斬りおとされ
引きずりだされてしまった
逃げなければと掴まれた腕を振り払おうとしたが
"抗ってはなりません"と言っていた母上の言葉を
思い出し怖さを押し込め
自分を掴む人物に震えながらも身を任せた