第9章 立待月
「大翔~一緒に出掛けるか?」
「良いですね~お供いたします信玄様」
あの日から今日で半月
俺は毎日信玄様と城下に出掛けては
葵の姿を探している
「今日もいないか....」
秋が終わりを告げ肌寒くなってきた
かじかむ手に息を吹き掛ける
葵とはあれっきり会えずにいる
もしかしたらもう嫁いで行ったのだろうか
冬が訪れて早くなった日暮れ
家路を急ぐ人たち
俺たちも陽が沈む前にと城へと続く坂道を
馬の背に乗って揺られていく
「大翔殿」
「ん?どうかしたの兼続さん」
厩に馬を繋ぎ信玄様と別れて
自室に戻るため歩いていると
兼続さんが声をかけてきた
「大翔殿にお話がございます」
そう言って連れてこられたのは謙信様の私室
俺は謙信様の正面に座らされ
兼続さんは下座に座り俺の退路をたった
相変わらずの冷たい瞳に俺は目線を反らした
「大翔貴様どう言うつもりだ」
「え~と...
どう言うとは何がですか?」
「しらを切るつもりか?」
「は...?
いや、意味がわからないんですけど」
「兼続」
名前を呼ばれた兼続さんは
はっ!と返事をして立ち上がり襖を開いた
襖の向こうには大量の反物などがあった
パッと見た感じでもわかる質の良さ
「これを見ても知らぬと言うのか」
この目の前の物がなぜ俺と関係があるのか
全く持って検討もつかなかった
「な~に騒いでるんだ?」
「うお!なんだこれ!?」
夕餉の準備が出来たと呼びに来た信玄様と幸村
大量に積み上げられた物に幸村は驚き声上げた
「もう届いたのか仕事が早いな」
信玄様の言葉に謙信様がピクリと反応し
じろりと睨みつけた
「....貴様の仕業か」
「まあな
幸、大翔先に広間に行ってなさい」
「あっはい」
「さっさと来て下さいよ」
にこやかに微笑む信玄様を置いて広間へと向かった