第9章 立待月
城下町から少し歩いた森の中に
夏場しか使われない小屋がたっている
俺が春日山城に居候するようになって
夏の間に何度か佐助たちと
小屋に訪れたことがあった
もうすぐ冬が後ずれるこの時期は
この小屋は使われることはほぼないだろう
「ここなら人来ないよ」
「はい」
「あのさ葵....
よく知らない男と
こんな人気のない場所に来るなんて
危ないって思わないの?」
「えっ?」
「葵は女の子で
俺は男なんだよ?
襲われたらどうするんだ
ほらこんな風にな」
腰を引き寄せ体を密着させ笑ってから
冗談だよとパッと手を離したが
「大翔様.....
わたし大翔様になら襲われてもいいです」
葵の予想外の返答に固まってしまった
「自分が何言ってるか分かってるの?
葵はそんなこと言う娘じゃないだろ?
何があった?」
「大翔様.....わたし嫁ぐことになったんです」
「え...?」
葵が嫁ぐ...
また俺の前から居なくなるのか
なんで、なんでみんな俺の前から居なくなるんだ
「わたしは好いた人のもとへ嫁ぎたい
でも、わたしは....北条家の娘だから」
「北条?」
「はい。黙っていて申し訳ありません
わたしは北条城主、北条高広の娘なのです
父上からお家の為に越中松倉城城主、河田長親殿のもとへ
嫁ぐよう言い渡されました」
いきなり色んなことを言われ
半ばパニックに陥った大翔
必死に頭の中を整理し始める
嫁ぐと言われて自分の気持ちに気づいた
俺は葵の事を好きだ
だからと言って襲うわけにはいかないだろう?
「嫁ぐ前に好いた人に
わたしは大翔様をお慕いいたしております
大翔様にわたしの初めてを捧げたいです」
こんな可愛いこと言われたら
我慢なんて出来るわけない
「葵、俺も葵が好きだ」
嬉しそうに微笑む葵の唇にキスを落とした