第9章 立待月
「こんにちは大翔様」
「こんにちは葵」
葵は少し変わったように思う
前までは後ろの方からちらちら見ていて
声をかけられておずおず傍に寄って来ていたが
最近では自分から声をかけて来るようになった
まあ会話は今までと変わらずだけどな...
「大翔様」
「ん?どうした?」
「大翔様に大事なお話があります」
でも今日は違っていた
強い意志を持った瞳でこちらを見つめる
その瞳から俺は目が離せずにいた
「おやおや、俺はお邪魔の様だな」
「「!?」」
見つめあって二人の世界に入っていた俺たちは
信玄様の存在をすっかり忘れていた
「あ~....すみません」
「申し訳ありません信玄様!」
ぽりぽり頬をかきながら謝る俺の横で
ペコペコ頭を下げる葵
「かまわないよ」
ポンポンと葵の頭を叩き
"夕餉までには帰って来いよ"と俺に一言残して
ひらひら手を振って去って行った
信玄様アンタ俺の母親ですか?
「甘味屋にでも入って話する?」
信玄様から葵に視線をうつすと
先ほどの強い意志を持っていた瞳ではなく
今にも泣きだしそうな潤んだ瞳をしていた
「葵?」
「!?はい
なんですか?」
「いや...甘味屋に入る?」
「いえ、その.....
他の人に聞かれたくありませんので
どこか人がいない場所に」
ん~人がいない場所ね~.....
「ちょっと歩くけどいい?」
はいと小さく頷いて葵は
俺の後ろをゆっくりと歩いて付いてくる