第9章 立待月
「葵
儂の部屋へ来い」
春日山城城下から帰って着替え済ませ
部屋で過ごしていると父上からの呼び出しがあった
「葵お前に縁談の話が来ている」
「.....え?」
部屋に入るなりいきなりきり出した父上
突然のことで理解するのに時間がかかってしまった
「お相手は越中松倉城城主、河田長親殿だ
お前を正室として向か入れたいとおっしゃっている」
「ですが.....」
「お前が春日山城城下に
出かけているのは知っている
逢瀬を楽しむのは良いが
北条の名に傷をつけることは絶対に許さん
お家繁栄の為自分が為すべき事をわきまえろ」
「.....はい」
遂にわたしにも縁談の話が来てしまった
父上はお家繁栄の為この縁談を進めるだろう
姉上はすでに上野国今村城主、那波顕宗に嫁いでいった
いつまでも嫁がずにいるわけにはいかないと思っていたが
いくらお家の為とは言え好いてもいない殿方のもとへなど嫁ぎたくなどない
あのお方大翔様のもとへわたしは嫁いでいきたい
「大翔様.....」
貴方の笑顔はいつもわたしを照らしてくれる
どんな暗闇でもあなたがいればわたしは歩ける
わたしはいつも山裾で立ちながら待っている
お城からの坂道をおりてくる貴方は
わたしの道を照らすお月様
「大翔様、わたしは貴方のことを
お慕いいたしております」
自室から見上げる夜空には立待月が浮かんでいた