第8章 十六夜月
「ねえ聞いた?」
「聞いたわ桜花様の縁談でしょ」
翌日城の廊下を歩いていると女中たちの噂話が耳に聞こえた
"桜花に会いに安土城に来る"と
「家康居るか!?」
「廊下を走らないでください」
何時もなら怒る立場の俺だが
今日は怒られる立場になってしまったがそれどころではない
『いらっしゃいませ秀吉さん』
差し出されたお茶を一気に飲み干し息を整えた
「女中に聞いたんだが桜花が男と会うっていうのは本当か!?」
「なんでわざわざ俺に聞きに来るんですか?」
『桜花に聞けば早いのにね』
「それは......
葉月は良いのか!桜花が初めて会うやつのところに嫁ぐなんて!!」
『あら、お忘れですか秀吉さん
私は顔も名前も知らなかったんですよ?
でも、桜花は"会え"と言われただけでしょ?
しかも名前もわかっているんですよ?
はっきりしない誰かさんと違って桜花のことを幸せにしてくれるかもしれないでしょ?
ねえ、どう思う秀吉さん?』
口角を上げてほほ笑む葉月だが瞳は冷たく俺を睨むように見つめられ
「た、たしかに葉月の言うことは正しいかもしれないが...」
「認めるんですね秀吉さん
だったらさっさと桜花と恋仲になってください」
「はあ!!?なにを急に言ってるんだ!!」
『じゃあ桜花が他の人に嫁いでもいいんですね?』
俺以外の奴の隣に...
「だめだ!!?」
思わず力いっぱい拒否の言葉を吐き出しハッと我に返った
『ふふっそれが聞けて良かったです
ちゃんと桜花と恋仲になってくださいね』
「ああ...わかった」
俺は桜花のことを妹だと思い込もうしていただけで
本当は一人の女として見ていたのか.....
俺はその足で城の桜花の部屋に向かった
俺の急な訪問に慌てる桜花に"落ち着け"と頭をポンポンと優しく叩けばふにゃと微笑みを浮かべた
「桜花、俺と恋仲になってくれないか?」
「はい!」
顎を掬い上げ口づけを落とすと瞬時に顔が真っ赤になった
「今まで以上に甘やかしてやるから覚悟しておけよ?」