第8章 十六夜月
俺と桜花は信長様と共に本陣に居る
刀のぶつかる音や人々の怒号が響く度に
小さな悲鳴をこぼす桜花
信長様から"少し静にしろ"と言われ小さくなって謝る
「信長様」
「三成か、なにごとだ」
偵察に出ていた三成が本陣に報告に帰ってきた
キリッとひきしまった表情はいつもと違う
"上杉と武田"と言う言葉を聞き愉しそうに笑うと
"出るぞ"と言い桜花の手を引き立ち上がった
「へ?!」
心配して狼狽える俺を背に信長様は桜花を自分の馬に乗せた
「お待ちください信長様!」
「うるさい秀吉
心配ならお前が後ろを守っていろ」
思わず出そうになった舌打ちを飲み込み慌てて信長様の後を追いかけた
「怖い怖いっ秀吉さん!?」
信長様に連れられ戦場に来た桜花は馬上で一人悲鳴を上る
「桜花今行く!」
俺は周りの敵を蹴散らし桜花の元へと急ぐが
そんな中、敵が放った弓が桜花が乗っている馬に当たり勢いよく走りだした
「「桜花!?」」
目の前の敵を切り伏せ走りだそうとしたが次から次へと現れる敵に行く手を阻まれた
「チッ!どけ!?」
後から追いついた三成も参戦しようやく敵を撃退したころには日が沈みかけていた
「何故ですか信長様!?」
信長様の命で一旦本陣へと帰って来た
そして俺は信長様の言葉にいつもならしないが思わず反論してしまった
俺を宥める政宗の言葉にも冷静に対処が出来ないほど動揺していた
そんな時兵の手当てを終えた家康が帰って来た
"何かあったんですか?"と問う家康に政宗が簡単に説明すると家康は大きなため息をはいた
「信長様の言う通り今は動かない方が良いです
明かりをもって移動するなんて自殺行為です」
俺は家康の正論に言葉を濁した
"幸運を呼ぶ女、死んだりはせん"と言われ押し黙った
"葉月はどうした?"と信長様が問うと
訝しげな顔で"こっちに来てるんじゃないんですか?"と
来てないと政宗が告げると沈黙が落ちた
「その事について少々お話があります」
シーンと静まり返った中に見知らぬ声が響き一気に緊張が走る
音もなくシュッと現れた男、俺は信長様の前に立ち刀を構え声の主を睨み付けた