第8章 十六夜月
葉月と三成を見送った日の夕刻に三成から報告の文が届いた
三成の文によると"村近くの河川からため池へ水を引くことになった"
それともう一つ"怪我や病気あと疲労回復に効くと言われる温泉がある"らしい
怪我に効く...か
明日家康の様子を見て伝えてみるか...
「家康。調子はどうだ?」
「熱も下がったのでもう平気です。何か用ですか?」
翌日、様子を見に家康の御殿へとやって来た俺が
"三成から報告があった"と言うと眉間に皺を寄せ嫌そう顔をする家康
俺が"怪我や病気、疲労回復に効く温泉があるらしい
馬に乗れるなら行ってきたらどうだ?"と言うと
"寝てたら治ります"と言いながら目線をそらし痛む腕を擦っていた
「まあそう言うなって
湯治のついでに見に行ってこい心配だろ?」
「葉月の心配なんか...」
「俺は村のことを言ったんだが?」
俺はやっぱり心配なんだなと家康に笑顔を向かた
「.....分かりました
明日行ってきます」
「そうしろ
信長様には俺から言っておく」
渋々ながら了承した家康に俺は安心して御殿を後にした
城へと向かいながら"全く心配なら心配だと言えばいいものを
天の邪鬼な奴だ"と苦笑をもらした
信長様に報告するため広間に赴くと丁度昼時で家康と三成以外全員そろっていた
「珍しく貴様の言う事を聞いたのだな」
「確かによく了承したものだな」
「素直じゃねえな」
「ホントだね素直になればいいのにね~」
俺が報告すると愉しそうに笑う四人に俺も同意した
次の日酒井から
"仕事をしていて湯治に向かってくれない"と
泣きつかれ急いで家康のもとへ向かい返事を待たずに開く
「何か用ですか?」
「お前なんでまだいるんだ?」
「これを片付けたら行きますよ」
「ダメだ!
さっさと湯治にいけ!」
このままだとダメだと思い素早く近づき有無を言わさず書面を奪い取ると
やっと重い腰を上げた家康の気が変わらないうちに御殿から追い出したのだった
その日の夕刻家康は葉月を馬に乗せ一緒に帰ってきた
出迎えた三成に相変わらず冷たい目を向けていた
その日から家康と葉月の距離が縮まったような気がする