第2章 用心棒ときまぐれ姫(菅原孝支)
同じ中学から片想いしているさんは、残念ながら俺の初恋が実る前に他の恋人が出来てしまった。
淡く儚い恋は終わってしまったが、人懐こく、天然な彼女は相も変わらず俺に付きまとってくる。
「おはよう、菅原くん」
「…おはよ…」
「はい、よくできました」
ちょっと家庭環境が複雑なさんは、アパートに一人暮らししており、そこに朝はお迎えに、帰りは見送りという命令を俺は受けている。
通り道だし、中学から顔馴染みということもあり、頼みやすいんだろう。
何故かというと。
「、いってらっしゃい」
「行ってきます」
「……!?は??」
「どーしたの?」
「あれ?この前付き合ってた人は……」
「あー……えっと。
ケンタくんかな?リュウちゃんかな?それとも……」
「さん、数日前でした。
確か数日前でした!!!
その数日間で何があったんですか!!!?」
「あっ、じゃぁ、リュウちゃんだ。
ええっと、相性が、ちょっと悪かったんだよねぇ」
さんはとてもモテる。
それは見た目がとても綺麗とか、スタイル抜群とか、そういうのではなく、雰囲気。
男心をくすぐるのが凄く上手く、このぶりっ子と媚を間近で受けられるなら金を払ってもいい。
そう思わせることの出来る人だ。
そのせいか、このアパートで何人の男をカウントしたか、最早わからない。
早いと2日で人が入れ替わる。
そして、それがうっかりストーカー化なんてこともあり、俺は用心棒がわりだった。
身が裂ける思いでこの恋心を諦めた俺はなんだったのか、一から説明して欲しい。
今もし告白しても、相手をしてくれるだろうか。
「菅原くん、あのね、ゴムなくなっちゃったから、帰りにどれがいいか教えてくれる?」
「俺に聞かないでくれ……」
これは最早、男としてすら見られていないのかもしれない。
故に何も言うまい。