第10章 ラムネ瓶にのぼる月2(月島蛍)
は思いっきり反省の顔を一旦して、眼鏡越しの僕の顔を伺う。
それはまるで、悪いことをしたのに反省していない猫のようだった。
「……蛍ちゃん、いつもたくさん心配してくれて、ありがとう」
「別に、突っ走って迷惑してるだけだから」
「私のこと、まだ嫌いじゃない?
いつも怒らせてる……ごめん…ね?」
嫌いじゃない?なんて、本当嫌な質問をしてくる。
正直言うと、雑用やお使いを手伝うのはもううんざりだった。
だけど、でも、それでも、いつも夢中で走っては転んでいる彼女を見るのが好きなんだ、と思った。
自分とは正反対だけど。
たくさんやりたいことがあって、真っ直ぐひたむきで、それは素直に羨ましい一面だと思った。
「……これ以上何か増やしたら、嫌いになるかもね」
ため息まじりにそう答えてあげた。
「じゃあまだ大丈夫なんだ」
何それ、勘違いするじゃん。
ムッと、思わず眉間を寄せてしまう。
「あ、ごめん……」
僕とは反対に、彼女は綺麗な笑顔を浮かべ、悪びれずに言葉だけの謝罪をした。
不本意だけど。そういうところにドキッとする自分がいる。
「もういい、チャリ、取ってくる」
「蛍ちゃん、ありがとう。
でもちょっとずつやるから、今日はもう、お茶して帰ろう?」
「は?バカなの?僕の部活の休み、次まで間あるよ?」
「うん、また、蛍ちゃんに手伝って貰いたいから」
だめ?と首を傾げて聞かれる。
素直がほんの少し顔を出すと、可愛いと思ってしまう。
「……また奢ってくれるなら」
「いいよ」
優しい声が、初夏のヒグラシの声に重なる。
その日渡されたラムネのビー玉は、ほんのり赤くて、自分の顔が反射してしまったのかと思った。