第8章 言の葉の音に(西谷夕)
そんなつもりで言ってるはずないのに、息が詰まった。
「俺のこと、うるせえって言わないの、お前くらいなんだよ!!
いなくなったら、俺の場所がなくなんだろ!!」
「なにそれ、勝手すぎるよ…」
「勝手でいいんだよ!お前が、遠慮しすぎなんだ!」
「だって……」
私みたいなのが、普通の人に溶け込むことすら難しいのに。
このもどかしい気持ちがわからないのは、やっぱり生きる世界が違いすぎるんだ。
そう言おうとした。
「だってとかでもとか、もういい!!
好きだ!!!」
「………!」
「聞こえないなら聞こえるまで何回でも言ってやる!!
好きだ!!好きだぁ!!」
「き、聞こえた!だから!止めてっ!!」
恥ずかしすぎて、その場で踞る。
それは、嬉しさよりよっぽど上回ってしまった。
顔すらまともに見れなくて、それをわかってか、彼は黙ったままだ。
やっと落ち着いて、玄関先を見上げると、西谷くんも顔を赤くして、気まずそうに私を見ていた。
「……あの…」
「だから、躓くとこは俺が手を引いてフォローするし、拾えないとこは俺が後ろで拾ってやるから……」
「……もうすぐ、西谷くんの声が聞こえなくなっちゃうの…。
それでもいい?」
涙ぐみながら聞いた。
だって、あまりにもそれは悲しいから。
人は、最初に声を忘れてしまうらしい。
早くして、私は貴方の声を失ってしまう。
「ギリギリまで全力で騒がしくしてやる!
一生覚えてられるように喋りまくってやるから」
気恥ずかしい中で、精一杯頷いて返事をした。
聞こえなくなっても、文字で声が思い出せるように、横でたくさんたくさん、いろんなことを話してもらおう。
たくさんの言葉が、音になっているうちに。