第8章 言の葉の音に(西谷夕)
「、昼休みに先生捕まえたから、この前んとこ聞けるぞ!!
俺も一緒に行くからな!!」
「…あ、ありがとう…」
西谷くんは本当にお昼休みを明けてくれた。
喫煙所近くにいた先生にノートを見せて、当てられた所とその前を聞き直して、書き込んだ。
「お前、そんなに聞こえなかったのか…悪かった…」
「大丈夫です」
「次からはそっちみて授業するよう、注意する」
先生はとても真摯に謝ってくれた。
「それから、君もわからなかったら聞くようにしてくれ」
「はい!」
一つでも前向きに出来ることが増えて、嬉しくなった。
もとは、私が相談してなかったことが原因だったこと。
それでも、相談する場が持てることは、西谷くんのお陰だと、心から感謝した。
彼は友達として接してくれていた。
帰りに時間があると楽しいところに連れていってくれたり、音がなくても楽しめるゲームを教えてくれたり、たまに図書室で筆談で宿題を教えたり、毎日が凄く楽しかった。
けれど、私は彼が好きになればなるほど、顔が見れなくて。
会話が上手く噛み合わなくなってきてしまった。
西谷くんは、クラスでも目立っていて人気なのはすぐにわかった。
だから、視覚化した嫌がらせも、納得のいくものだった。
あまりにも多すぎるそれは、幼少期から慣れていても、ぐさぐさと心に突き刺さった。
下駄箱や机から出てくるゴミには、嫌気すらする。
それでも、心配させてはいけないと、隣の席に彼が来る前にいつも片付けていた。
幸い、朝も練習のある西谷くんは、教室に来るのが遅い。
なんとか誤魔化しているつもりだったけれど、ある日、お昼に誘われた。
誰もいない屋上階段の脇。
その頃にはすっかり好きだと認識していた私は、緊張して、口元もまともに見れていなくて、ほとんど言っていることがわからなかった。
「…だから、隠してることあんだろ!?」
聞き返して3回目、反響する声がやっと届いた。
「ないよ…」
真っ直ぐな瞳で見られると、嘘は筒抜けになってしまった。
「お前が人の顔見ないと話せないの知ってんだよ。
ちゃんと見ろよ」
怖いのと恥ずかしいのと、さっと血の気が引いてしまう。