第6章 騎士と気まぐれ姫(菅原孝支)
「あー、暇だなぁ」
「暇じゃない」
「ねえ、菅原くん、デートしよ」
「暇じゃない!」
「なんで?」
「俺明後日から合宿!
今俺がやってるのは君の課題!」
「もういいよ、飽きた」
「さんがやれって言ったろ!!
俺は教えるだけって言ったのに、結局やらせて…」
「菅原くん、マメなんだもん」
この年の夏休み、俺はほとんどの日程をさんの家で過ごした。
夏になると、この辺は不審者が増える。
さんの家の扉は鍵すらまともに掛からないボロ家だ。
連日のストーカーの件もあり、彼氏としてはいても立ってもいられなかった。
という大義名分を抱えつつ、うちから学校に行くよりかは近く、部活の朝練の時に少し楽になるという一面もあった。
夜は、床で寝ようとしたら、
「なんで」
と珍しく膨れた顔で怒られた。
(めっちゃかわいい)
と見とれていたのも虚しく、両頬を思いっきりつねってきた。
「痛…!」
「菅原くん、隣で寝てくれなきゃ、やだ」
それは拷問ですよさん。
シングルベッドの軋みに二人分の体重が乗る。
向かい合わせで横にさせられ、薄い掛け布団が掛けられる。
(近い…)
ふわっと漂ういい香りや、長すぎる睫毛が動くさま、つやつやとして控えめな唇、凄く目を奪われた。
「ね、菅原くん」
細い指が俺の指を絡めとり、俺はじっと見つめられる。
「な、何…?」
「ぎゅってして」
「えぇ…!?」
その華奢な身体を言われた通りに自分に寄せた。
女の子の香り。
眩暈がしてくる、緊張する、脈が痛いほど強くなる。
「朝まで、そのままね」
「え、ちょ……」
「おやすみ」
自分が襲う勇気もないヘタレなのを彼女はよく理解していた。
(ああ、ほんと、拷問だ…)