第5章 迷子の子犬さん(澤村大地)
よく言えば独占欲、悪く言えば独り善がり。
そういう理由で、俺は彼女の申し出を断った。
「うちはもうマネは二人いるからいらない」
冷たく言ったつもりは毛頭なかったが、悲しそうに涙を流すその姿には、些か胸が痛んだ。
それでも、彼女が自分以外の誰かに接しているところを見て、冷静でいられる自信がなかった。
彼女には、正直一目惚れしていた。
惚れた、というよりは、世話を焼いてあげたくなった。
まさしく、独り善がり。
「どうした?迷ったか?」
「…あ」
新入生の彼女は、普通の人より行動が一歩遅く、移動教室で迷子になったという。
そんな広い学校でもないが、そこで迷うというのだ。
相当とろいんだな、という第一印象だった。
案内してやるとぺこぺことオモチャのように頭を下げた。