第8章 心から愛した
───ようやく私の手首を痛めつけていた縄が外れ、ふらつきながらも彼らと一緒に小屋を出た。
先程の村人たちは4人に槍を構える隙もないほどにやられ、ワーカは私の一蹴りで気絶してしまったようだった。
外に出ると、空を切り裂くほどの雷の音が耳を直撃し、大粒の雨が地面を叩きつける。
私の心を投影したかのような悪天候だった。
「来た時はこんなじゃなかったのにね…」
ぺけがそう言うと、彼らも頷く。
外にはまだ村人たちがウロウロしていて、私たちを見つけると一斉に襲いかかってきた。
「ダホ!そっち頼む!」
「りょーかい!」
私も、守られるばかりの姫じゃない。
彼らと同じように能力を使って、私たちの首を目掛けて走ってくる村人たちを薙ぎ倒す。
この人たちにも、私を育てる過程で愛情が芽生えた瞬間があったのだろうか。
私にはもう村人たちの本心を知る由もない。
あの楽しかった日々は二度と帰ってこないし、それに、私の心に深い傷をつけた事実は変えられない。
でも、それと同じように、この村で過ごした日々は決して消えない。
私が生まれ、育てられ、生きた、故郷。
あの時優しくしてくれた近所のおじさん、どんな時も私の遊び相手になってくれたおばさん、面倒見のいいお姉さん。
みんな今では血相を変え私たちをどうにかこの村に捧げようとする。
私のことを。この村で過ごした楽しい日々のことを。
……忘れないで欲しかったな。
視界が涙で歪んだ、その瞬間だった。
「うわぁああっ!!」
涙がすっと乾いていく。
村の中心部に轟く叫び声が本当に時間を停止させたかのように村人たちが動きを止める。
次の瞬間、まるで強制シャットダウンされた機械のように、次々と村人たちが倒れていった。
「なんだよ、あれ…」
ふとシルクの声がして、視線を辿る。
すると、そこには───
「ゔぁ…恋奈……恋奈ぁ………!」
得体の知れないモノ。
どう形容したら良いのかわからないほど、人間とは程遠い姿形をした怪物がいた。